いいから黙って抱きしめろ。

ただいまとか おやすみとか 愛しているよとか。

ある登山家の思考。

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目の前に、山がある。

よくわからないけれど、ある日気がつくと

この山はわたしの目の前に現れた。

 

どどん。

 

山は何も語りかけてはこない。

けれど

何故だかわたしは登りたくなった。

 

何かに突き動かされる訳もなく

そこに誰がいるわけでもなく

山頂からの景色も想像できないままに

気づけば 既に一歩目を踏み出していた

 

「歩くしかないよなぁ」

 

偉人めいた思考もそこにはなくて

使命感があるわけもなくて

 

口に出た言葉はそんなものだった。

 

 

歩きはじめて少しして

ふと山頂の方へと目をやる。

 

頂には、見るからにそれだとわかるような

力強い、赤い旗が立っていた。

 

 

「ゴール。」

 

 

 

赤に書かれた文字を見て思わず笑う。

 

 

 

わかる。目を凝らさなくてもわかる。

 

だって

あの文字を書いたのはわたしだ。

 

 

そうか。そうだったな。

この山の、あの場所に行こうと

旗を立てたのはわたしだった。

 

 

そうか。もうここまで来たのか。

なんだか嬉しくなって

歩を進めようと背伸びをする。

 

ラジオ体操の要領で腰を撚ると

さっき、この山を見つけた

少し手前の場所が目に留まった。

 

 

「ゴール。」

 

 

月日の経過なのか山頂にあった赤よりは

鮮やかさに欠けるけれども

そこにも確かに力強く旗が立っていた。

 

 

もう一度笑う。

旗の文字は確かにわたしのものだ。

 

2つの旗を交互に見て

あの時よりも、強くなった心と身体を頼もしく感じる。

 

 

 

「歩くしかないよなぁ」

 

 

笑いながら放ったその言葉は

さっきよりも確かに、じんわり熱を帯びていた。

 

 

 

 

**********************

 

 

新人の教育をするとき、わたしはいつも、

「ゴールの旗を立てなさい」と話します。

 

 

どんなカメラマンになりたいのか

じっくり、自分と対面しながら。

恐いけれど、ちゃんと自分でそれを見つけなさい。と話します。

 

ブレない旗が立ったら、それは強いから。

迷ったり、わからなくなったときは、

いつもその旗を見て、進んで行ったらいい。

だって自分で立てられたゴールなのだから。

大丈夫。きっと辿り着けるよ。

の、意味合いを込めて。

 

 

日々を忙しくしていると

足を前へ動かすことだけに囚われて

「あれ。わたしなんで歩いてるんだっけ」

なんてわからなくなるときもあります。

 

そんなときは立ち止まって

顔を上げて旗を目に入れると

わたしの場合、安心するのです。

 

そうか、そうだったな。ゴールの旗はわたしが立てたな。

 

 

この山を越えたら、また山が待っているかもなあ。

 

 

人生は愉しい。

 

さて、歩きますか。

 

 

 

 

今日も会いに来てくださってありがとうございます。

 

昨日は疲れ果ててベッドにダイブしてしまって朝これを書いているわたしを許してたも…。涙

 

 

 

あなたの今日が、健やかな一日でありますように。

 

 

 

それではきっと、また今夜。